止水注入工法についての解説

近年、土木構造物には耐久性に関する問題の1つとして漏水があり、止水性および硬化後の強化が求められています。

また、以前に漏水対策を施工されている箇所においても、経年劣化によって再び漏水が起こってしまうこともあります。

この記事では、永続的に止水ができる止水注入工法について、工法の特徴や止水材の種類、主要な工法を紹介していきます。

止水注入工法とは?

止水注入工法は、コンクリート構造物の漏水問題を解消するために用いられる工法です。

漏水対策には、大別すると止水工法と導水工法の2工法に分かれますが、今回解説する止水工法も充填工法と注入工法の2つに分かれます。

現在の漏水対策は、止水材をコンクリート内部のひび割れ箇所に注入して埋めることで漏水を止める止水注入工法が主流です。

止水注入工法の特徴

止水注入工法の特徴をいくつか挙げて解説します。

構造物内部の隅々まで充填できる

止水注入工法は、コンクリートの内部から止水材料を注入する工法であるため、将来的に漏水の経路となる可能性がある微細な隙間までしっかりと注入することができます。

コスト削減・工期短縮に優れている

止水注入工法は、施工時の前処理作業を削減することができ、機械化施工によって工期を短縮することができます。

構造物の美観を損なわない

止水注入工法は、導水工法のようにVカットすることがなく、シーリングを行うこともありません。

注入孔も小さく目立たないため、構造物の美観を損なわずに施工することができます。

コンクリートを傷つけない

止水注入工法は、コンクリートに誘導パイプを挿入して注入するため、コンクリート内部の鉄筋からコンクリート表面までのコンクリート部分を傷つけずに施工することができます。

よってコンクリートの耐久性や強度が下がるということもありません。

様々な構造物に適用できる

止水注入工法は、土木分野だけに留まらず建築分野でも多くされている工法です。

既設、新設のどちらにでも対応が可能であり、様々な構造物での漏水を止水してくれます。

注入材の種類

止水注入工法に使用される注入材は、大きく分けると無機系と有機系の2種類に分かれ、有機系においてはウレタン系とアクリル系それぞれの特徴について解説していきます。

無機系注入材

無機系注入材は、既存のコンクリートと同質であるセメントを用いた注入材です。

注入材には通常のセメントより細かい超微粒子セメントを使用しています。

細かい粒子であるため、コンクリート内部の細かい隙間まで注入することができます。

ウレタン系注入材

ウレタン系注入材は、コンクリートの内部で発泡し固結するため、短時間で漏水を押さえ込むことができる材料です。

ただし、短時間で硬化してしまうので、十分な充填ができない場合があるのが難点ではあります。

アクリル系注入材

アクリル系注入材は、ウレタン系と比較すると流動性や接着性に優れており、ひび割れが進行していても追従することができ、ひび割れの進行を抑える効果もあります。

コンクリートの継ぎ目やひび割れなどから確実に漏水を止める工法です。

止水注入工法の施工手順

止水注入工法の施工手順は次の通りです。

それぞれの手順について解説していきます。

 

1.鉄筋位置の探査

2.注入孔の削孔

3.誘導パイプの挿入

4.ホース・ノズル内の空気抜き

5.止水材の注入

6.硬化状況の確認等

鉄筋位置の探査

躯体内部にある鉄筋位置をレーザーなどを用いて探査します。

躯体に対して鉄筋の配置されている位置や、かぶり厚という鉄筋からコンクリートの表面までの厚さを調査することで、鉄筋を傷つけないために行います。

注入孔の削孔

鉄筋が配置されている箇所をマーキングし、注入孔の深さは躯体厚さの2分の1を目安として、ドリルを使用して注入孔を空けていきます。

注入孔の大きさはφ10mmぐらいが目安で、鉄筋を傷つけないように注意が必要です。

誘導パイプの挿入

削孔した注入孔に誘導パイプを挿入します。

誘導パイプはコンクリートに止水材を注入する際に、ピンポイントで注入できるように必要です。

ホース・ノズル内の空気抜き

注入する前にホースやノズル内にある空気を抜きます。

空気を抜いておかないと、止水材がしっかりと注入されず目詰まりを起こす原因にもなるので重要な手順です。

止水材の注入

エア駆動のピストン式ポンプで止水材を注入していきます。

止水材は水に反応することで、弾力性に富んだ強度の高いポリマーゲルを形成します。

注入の圧力は、漏水や注入の状況によって0〜50Mpa(メガパスカル)の間で変化します。

硬化状況の確認等

注入した止水材が十分に硬化したことを確認し、硬化が十分でない場合や目詰まりを起こしている場合には再度削孔した後に注入し直します。

注入ピンを撤去し、埋め戻した後に漏水していることが確認できなければ施工完了です。

主な止水注入工法の紹介

ここでは、主な止水注入工法の2工法をご紹介します。

三生化工「アルファー・ゾル-G注入工法」

「アルファー・ゾル-G注入工法」は、コンクリート構造物の打設部・ひび割れ部等からの漏水や鉄筋コンクリートの劣化を抑制する止水注入工法です。

絶妙な粘度と高い流動性によって微細なひび割れや隙間にまで入り込み、高圧で注入することにより注入剤が充填され構造物との一体化も期待できます。

アルファー・ゾル-Gは、火気に近づけると危険な物質を含まず、特定化学物質に当たるものも使用しておらず環境にも配慮された止水材です。

アルファー・ゾル-Gに含まれている硬化促進剤によって硬化作用が働くので、ひび割れ内部が湿潤状態、乾燥状態のどちらにも対応して施工することができます。

さらに体積減少が無く、長期的に安定した止水性能を発揮し、接着性と硬化後の弾力性に優れており、地震や振動による再び漏水することを防ぎます。

東邦化学「ハイセルOH」

「ハイセルOH(オーハー)」は、水に溶けやすく混ざりやすい親水性タイプと水に溶けにくく混ざりにくい疎水性タイプの2タイプに分かれていますが、漏水対策として使われるのは親水性タイプの薬剤です。

硬化した後はゴム弾性ゲル体になり、耐久性が増していきます。

「ハイセルOH」の特徴は、水と反応して固結するため止水性能が格段に優れている点です。

高分子ポリマーのため浸透力を発揮し、少ない薬剤でも多量の漏水を止めることができます。

止水が完了したら樹脂モルタルやエポキシ樹脂などで表面処理を行います。

まとめ

止水注入工法は、トンネルを中心に様々な分野で採用されている工法で、注入時に高い圧力がかかっても構造物に損傷を与えることが少ないということが特徴です。

施工後の経過においても再び施工をし直すことがなく、長持ちしていることが分かります。

補助的な工法と併用することで、さらに止水性の向上が見込まれ、適用範囲も広がっていく期待が持てる工法です。

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