表面含浸工法について

表面含浸工法は、コンクリート構造物を効率的に維持管理し、長く使いこなすため合理的に耐久性を向上させる工法です。

この記事では、表面含浸工法について特徴や施工に関して解説していきます。

表面含浸工法とは?

表面含浸工法とは、コンクリートの表面に表面含浸材をローラーやハケ、スプレーなどを用いて塗布、含浸させる工法です。

コンクリートに塩分や水分などの劣化因子が浸透することを防止する効果があります。

コンクリート表面の組織をアルカリ性に改質すること、そして鋼材の防錆性を付与するとともに、ぜい弱部分の強化を行いコンクリートの耐久性を向上させることに適しています。

表面含浸工法の特徴

表面含浸工法は、コンクリートの表面に塗布する含浸材が無色透明であるため、コンクリート構造物の外観に大きな変化を与えることなく、施工後の目視による経過観察が可能です。

また、施工の工程が少ないため施工期間も短縮することができ、施工コストも少なく抑えることができます。

施工後のコンクリートの内部は紫外線の影響を受けにくく、塩分や吸水による劣化の進行も抑えることができます。

表面含浸材の種類

表面含浸材にはいくつか種類があり、それぞれの特徴について解説していきます。

シラン系表面含浸材

シラン系の表面含浸材には、水に溶けにくいアルキル基という化合物が含まれています。

コンクリートの表面に塗布して含浸させていくと、コンクリートの表面や隙間ができた部分にアルキル基が付着し、含浸した部分が水に溶けにくくなり水分を吸い込む機能を抑制します。

さらに、塩害、凍害、アルカリ骨材反応、炭酸化による劣化抑制に効果があります。

シラン系表面含浸材の主成分は、シランとシリコーンです。

シランとシリコーンを水で希釈したものを水系、表面含浸材の5%以上の有機溶剤で希釈されたものを溶剤系、5%未満の有機溶剤で希釈されたものを無機溶剤系と呼びます。

また、フッ素系の表面含浸材があり、コンクリートの表面の汚れを防ぐ役割がある含浸材です。

ケイ酸塩素系表面含浸材

ケイ酸塩素系表面含浸材の主成分はケイ酸塩アルカリ金属塩です。

コンクリートの表面に塗布して含浸させると、隙間部分に無機質の固形物を形成し隙間を埋める作用があります。

外部から水や炭酸ガスなどの劣化要因の侵入を防ぎ、コンクリートの耐久性を向上させることができます。

ケイ酸塩素系表面含浸材は、主成分によりケイ酸リチウム系、ケイ酸塩混合型、ケイ酸ナトリウム系、ケイ酸カリウム系に分類され、それぞれの要素で作り上げた組成や性質を改良した改質機構によって固化型と反応型に分類されます。

固化型ケイ酸塩系表面含浸材

固化型ケイ酸塩系表面含浸材は、材料そのものが乾燥によって固化することでコンクリート内部の隙間を埋めるためのものです。

乾燥してできた固化物はゲル状になり、その主成分はケイ酸リチウムが多く含まれています。

コンクリートが既に中性化している構造物に使用されます。

反応型ケイ酸塩系表面含浸材

反応型ケイ酸塩系表面含浸材は、コンクリート中の水酸化カルシウムが化学反応を起こしゲル状になり、コンクリート内部の隙間を埋めていくものです。

主成分としてケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、または両方が混合されています。

新設のコンクリート構造物や断面修復に使用されます。

表面含浸工法の施工手順

表面含浸工法の施工手順について解説していきます。

足場設置・養生

施工現場に足場を設置し、施工時に材料が飛散して周辺が汚れないように養生シート等で養生します。

下地処理

コンクリート面に付着した汚れや泥などを高圧洗浄機で洗浄します。

残ってしまった石灰成分はディスクサンダーやワイヤーブラシなどで除去し、コンクリート面を露出させます。

表面水分率の確認

含浸材の種類によって、コンクリート面の水分率の規定があります。

水分計を用いてコンクリート面の水分率を測定し、水分率の規定に応じて適切な施工方法を選定します。

水分率が8%以下であるなら含浸材を塗布することが可能です。

表面含浸材の塗布

施工するコンクリート面が湿潤状態にある場合は、ブロワーなどで乾燥させます。

これは乾燥状態であると塗布する箇所を視認できるからです。

表面含浸材は使用前に撹拌機で十分に撹拌してから使用し、ハケやローラーを用いてたれ落ちしないように塗布します。

垂直面に塗布する場合は、下から上へ塗布することで、たれ落ちないようになります。

2回塗布する場合、通常の塗布量を0.25kg/㎡とし、床面→天井面→壁面の順番で塗布していきます。

1回目の塗布が完了したら、夏場では約1時間、冬場なら約2時間ほど乾燥時間を設けましょう。

十分に乾燥したことを確認できたら、2回目を1回目と同じように塗布していきます。

養生

塗装完了後、塗布面が雨にさらされる場所では乾燥前に養生シートなどで保護します。

足場撤去

施工完了後、組み上げていた足場を撤去して作業完了です。

施工に関する注意点

表面含浸工法の施工に関する注意点をいくつか挙げていきます。

施工時の気温に注意する

材料メーカーによって、施工時の気温を規定しています。

目安としては、気温5℃を下回る場合は施工条件の対象外です。

施工時の温度が低いと含浸材が十分に含浸せず、新たな劣化因子を生み出すことになりうるからです。

コンクリートの水分率に注意する

含浸材の種類によって、コンクリート表面の水分率が規定に達していないと十分に含浸しません。

水分率が8%以下である場合は問題ありませんが、8%を超える場合は十分に含浸しないので、含浸材を塗布する前に水分計でコンクリート表面の水分率を計測することが重要です。

施工時の安全面の確保

含浸材を塗布する場合、非常に強く固着することがあるので皮膚に付着しないようにしてください。

また、臭気を発するため、防護メガネやマスクを着用して施工しましょう。

アルコール系の溶剤を含む含浸材を使用する場合には、換気に十分留意して火に近づけないようにすることが重要です。

おわりに

コンクリートの品質を低コストで簡易的に向上させる表面含浸工法への期待は年々高まっています。

凍結防止剤の影響を受けやすい橋の高欄の基礎部分や橋桁の端部分には、塩分や水分の吸収を抑えるシラン系を用います。

そして、橋の上部を支える橋の座面にはコンクリートの力学的な性能を保持するためケイ酸塩系というように、施工部位によって表面含浸材を使い分けられるようになりました。

このように表面含浸工法の適用条件は徐々に整うようになってきた反面、建設から解体までのライフサイクルコストに関する評価はまだ確定していません。

さらに、既存のコンクリート構造物全てに適用できる工法ではないため、今後の技術開発により適用範囲の拡大が期待されているという課題も残されています。

残された課題を克服し、コンクリート構造物の耐久性をより高めるための技術革新に期待したいところです。

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