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断面修復工の1つ、吹付工法とは?
断面修復工の1つ、吹付工法って?
吹付工法は断面修復工法の1つです。
他には左官工法、モルタル注入工法、コンクリート充てん工法と分類されており、各工法は施工条件や補修の規模によって使い分けられています。
このページでは、吹付工法について特徴や施工手順などを中心に解説していきます。
吹付工法とは?
吹付工法とは、コンクリートやモルタルを圧縮空気によって吹付機械を用いて吹き付ける施工方法です。
圧縮空気は、空気に高い圧力を加えて体積を小さくし、膨張した時の力を利用して機械を動かします。
型枠を使用することなく、広い面積で薄いコンクリート層を施工することができます。
吹付工法は、従来土木構造物ののり面保護や、トンネルの一次覆工で使用されていますが、断面修復工ではまだ歴史が浅い工法です。
覆工は、工事で開いた部分を一時的に元に戻し、使える状態にすることを言います。
材料を均一に混ぜたコンクリートやモルタルに、急速に硬化させる急結剤とポリマーディスパージョン、単繊維などを加えて対象の構造物に吹き付けていきます。
ポリマーディスパージョンは、液体のゴムラテックスまたは樹脂エマルジョンに安定剤、消泡剤を加えて分散させ、均質にしたものです。
吹付工法の施工方法には、湿式と乾式の2種類があります。
湿式吹付工法
湿式吹付工法は、あらかじめ練り混ぜておいたまだ硬化していないコンクリートを、吹付機の圧縮空気やポンプで搬送してノズルから吹き付けていく工法です。
粉塵の発生や吹き付けた際の跳ね返りが少なく、吹き付けたコンクリートの品質が安定するメリットがあります。
乾式吹付工法
乾式吹付工法は、水を含まないドライミックスのコンクリートを吹付機に投入して、圧縮空気でノズルまで搬送し、ノズルの近くで水を加えて吹き付ける工法です。
吹付機からノズルまでの圧力をかけて搬送する距離が長く取れること、コンクリートを練り混ぜてから吹き付けるまでの時間が長くとれるなどのメリットがあります。
吹付工法の施工手順
吹付工法の施工手順について解説します。
吹付工法による施工は、補修・補強後のコンクリート構造物の安全性、耐久性、使用性などの性能を確保するために実施されるものです。
事前調査
事前調査では、既設のコンクリート構造物の設計図書を確認し、コンクリートの強度、内部の鉄筋を把握しておきます。
さらに、コンクリートのひび割れ状況、鉄筋の腐食状況を確認し、必要に応じて補修などの対策を行います。
下地処理
ポリマーセメントモルタルの接着強度が得られるように、コンクリート面の油脂などの汚れや脆弱部分などを下地処理によって取り除きます。
下地処理には、超高圧洗浄や吸塵によるブラスト工法によって、健全なコンクリート面を露出させていきます。
鉄筋修復・防錆
内部の鉄筋が腐食している場合、腐食部分を取り除いた後、防錆剤など塗布して防錆処理を行います。
防錆処理の際には、対象の鉄筋に対して適切な材料と工法を選択します。
鉄筋防錆材料は、リン酸系や有機酸系などの錆転換型防錆材料、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの樹脂系防錆材料、ポリマーセメント系の防錆材料があります。
アンカーの配置
施工時の補修・補強の固定に必要なアンカーを配置します。
補強の場合には、ネジ径がM8以上のアンカーを1平方メートルあたり6本以上で固定します。
コンクリート表面の状態や寸法に応じて本数を調整することもあります。
プライマーを塗布する
ポリマーセメントモルタルの接着強度を良くするために、コンクリートの下地にプライマーを塗布します。
プライマーを塗布することで、コンクリート内の水分を調整する効果もあります。
材料を練り混ぜる
補修材料であるポリマーセメントモルタルを水を加えて練りながら混ぜていきます。
ポリマーセメントモルタルは、セメントモルタルにポリマーを配合したものです。
一般的にセメントに対して5〜20%程度のポリマーが配合されています。
接着力や曲げ強度を高め、ひび割れを抑える効果があります。
吹き付け施工
ポリマーセメントモルタルを吹付機でコンクリートに吹き付けていきます。
吹き付けの前にモルタルフロー試験などを実施し、モルタルの柔らかさ(フロー値)を確認する必要があります。
ポリマーセメントモルタルの最大厚さは、天井面で30mm、壁面で50mmとし、最大厚さを超える場合は2層以上に積層します。
冬季の施工や、直射日光が当たるなどして乾燥してしまうことがあり、ひび割れを起こさないように注意することが重要です。
コテ塗り
吹付した後に、補修材の近辺に隙間ができることがあり、その場合にはコテ塗りで隙間を埋めていきます。
コテ塗りの際の注意点は、基本的に吹付と同様の条件を満たすようにしましょう。
吹付工法のメリット・デメリット
吹付工法のメリット、デメリットについて解説していきます。
各メリット、デメリットを理解した上で適切な施工方法を選択することが重要です。
吹付工法のメリット
吹付工法のメリットは、締固めや施工による振動がないことが挙げられます。
そして、必要となる型枠の数が少なく済み、型枠の側面にかかる圧力も小さくなります。
斜面や上面には型枠を設置する必要がないので、型枠工の施工時間とコストがかかりません。
複雑な形状の施工箇所にも対応でき、搬送に使用するポンプの負荷が小さくなります。
吹付工法のデメリット
吹付工法のデメリットは、吹付の際に機械を使用するので機械の能力や施工者の技術力によって精度が左右されることです。
吹付後に続けて空気を混入することが困難でもあります。
また、急結材などの特殊な混和材が必要になるため、その分コストがかかります。
吹付した箇所が鉄筋の背面まで届かないことがあり、未充填につながります。
吹付工法の品質管理
吹付工法を施工する際には、材料などの品質管理が必要です。
ここでは、各材料や出来形管理について解説していきます。
補修・補強材料の品質管理
補修・補強材料の品質は、工場生産時の品質記録を確認します。
また、新素材を使用する場合は所定の品質を確認してから使用するようにしましょう。
モルタルの品質・配合管理
モルタルの品質管理は、硬化する前はモルタルの配合などを確認し、硬化後はモルタルの強度を確認します。
また、適切な配合で練り混ぜた際に、流動性の状態を確認することで品質の確認を行います。
適切な配合を行うことにより、モルタルの流動性やポンプへの圧送性、厚塗りした際に良好な強度を得ることができます。
モルタルの強度は、施工面積200㎡に1回の頻度で圧縮、曲げ、付着強度の試験を実施します。
出来形管理
出来形管理は、施工面積と施工厚さを計測し出来形検査を行います。
既設コンクリートに設置した検測ピンなどのガイドを目安として施工面積10㎡に1ヶ所設置し、検測孔は施工面積100㎡に1ヶ所設置して検査します。
おわりに
吹付工法は、橋梁では床版下面や橋脚、橋台などに使用されている工法です。
高速道路橋や鉄道橋の場合、常に振動や高い荷重がかかる箇所から劣化していくため、劣化部分のコンクリートを除去した後の凹凸部分や鉄筋の背面などに吹付材料がしっかりと密着すること、また、付着強度や既存構造物に近い力学的性能、耐久性の向上などの要求性能が求められます。
日本では、まだ品質規格が定められておらず、産・学・官が一体となって性能評価試験方法の確立が望まれています。