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橋梁に適用される補修工法
日本における橋梁の約4割が建設から50年以上経過しており老朽化が進んでいます。
5年に一度実施される点検、調査の結果によって判明した、橋梁の劣化程度やその規模、原因は様々です。
橋梁の材質や劣化に適用する補修工法を選定するためには、劣化部分の要求性能を満たすことが前提になります。
以下に補修工法の概要についてご紹介していきます。
コンクリート橋に適用される補修工法
コンクリート橋に適用される工法は、大きく分けて8つあります。
劣化原因や要求性能によっては、複数の工法を併用することもありますので、適切な選定をすることが必要です。
コンクリート橋の主な劣化原因
コンクリート橋の主な劣化原因として挙げられるのが、塩害、中性化、ASR(アルカリシリカ反応)です。
劣化の原因によって、どの補修工法が適用可能であるのかを次の表でご紹介致します。
表:コンクリート橋の劣化原因に適用可能な補修工法
劣化原因 | 補修工法 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ひび割れ補修工法 | 断面修復工法 | 部分打替え工法 | 表面被覆工法 | 防錆処理工法 | 防水工法 | 再アルカリ化工法 | 全体打替え工法 | 電気防食工法 | 脱塩工法 | |
塩害 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
中性化等 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
ASR | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
ひび割れ補修工法(被覆工法、充填工法、注入工法
補修完了後の塩化物や水分、酸素が侵入するのを抑制する工法として適しています。
ひび割れ箇所にエポキシ樹脂などを注入、またはひび割れ箇所をカットしてポリマーセメントなどを充填することにより、劣化部分と一体化させることができるからです。
断面修復工法(左官工法、充填工法、吹付け工法)
粗骨材をあらかじめ型枠の中に詰めておき、その空隙にポリマーセメント系などのモルタルを注入、充填してコンクリートを作り、断面修復する工法です。
コンクリートの劣化や鋼材の腐食により欠損している断面部分を除去し、元の状態に戻します。
部分打替え工法
コンクリート断面の損傷した箇所を、鉄筋の継手部分を確保しながら損傷している部分を切断して、新たに鉄筋を設置することによって損傷箇所にコンクリートを打設して修復する工法です。
床版、壁高欄など、損傷している部分を取り除いても橋梁全体にあまり影響のでない部位に適用されます。
表面被覆工法
コンクリートの表面を塗装により被覆することで、コンクリートの劣化要因である水分、塩分、炭酸ガス及び酸素等の浸透を防止する工法です。
塩害による劣化に適した塗装材料を選択する必要があります。
防錆処理工法
コンクリートをはつり、鉄筋露出後、鉄筋の錆をケレンして、鉄筋にエポキシ樹脂塗料、ポリマーセメント系塗布材などの防錆材を塗布する工法です。
露出した鉄筋の腐食の進行を抑えるため、暫定的な対策として行われる場合もあります。
防水工法
防水工法は、水がコンクリート内に浸透しないように、コンクリートの表面に複数の防水材を組み合わせて布設または塗布する工法です。
防水工法の種類としては、大きく分けてシート系、塗膜系の2つに分類されています。
再アルカリ化工法
コンクリート橋の鉄筋部分にまで中性化が進行している場合、コンクリート内の鉄筋と外部に設置した電極との間に直流電流を流すことによって、仮設材の中に保持しているアルカリ性溶液をコンクリート中に強制的に浸透させて再アルカリ化させる工法です。
全体打替え工法
広範囲に渡って著しい劣化や、コンクリートの品質などによって補修工法が適用できない場合において、既存の箇所と同じ形状の部材を全体的に打換えする工法です。
本工法を施工する際には、道路の規制が必要になる場合があります。
電気防食工法
コンクリート構造物内の鉄筋を陰極、コンクリート表面に設けたチタン金属を陽極にして直流電流を流します。電流を流すことによって電気化学的にコンクリート内部の鉄筋を活性化させない状態にして腐食の進行をくい止める工法です。
脱塩工法
外部電極を仮設して、コンクリート内の鉄筋との間に直流電流を流すことによりコンクリート内の塩分を取り出す工法です。
塩害の進んだコンクリートの劣化部分を取り除き、断面修復工法を適用しない場合には有効です。
鋼橋(RC床版)に適用される補修・補強工法
鋼橋(RC床版)に適用される補修・補強工法は、大きく分けて9つになります。
損傷している箇所や損傷の状態によって、適切な工法の選定が必要です。
鋼橋(RC床版)の主な損傷
鋼橋における主な損傷は、RC床版のひび割れ、剥離、鉄筋の露出などが挙げられます。
損傷の箇所や状態によって適用可能な工法は下記の通りです。
橋面防水工法
橋面から雨水などが侵入した場合、床版の内部に浸透しないようにする工法です。
雨水や塩化物イオンの影響を受けると、鋼材、床版の劣化が著しく進行してしまいます。
床版の耐久性を向上させるために橋面防水工法が必要です。
上面増厚工法(床版、鉄筋補強)
床版、鉄筋補強鋼繊維補強コンクリートを打ち足す工法です。
既設コンクリート床版の表面を切削してブラスト処理を行った後に鋼繊維補強コンクリートを打設して増厚します。
床版の強度が向上し、工期短縮や施工コストの縮減に優れています。
縦桁増設工法
主桁が鋼製の鉄筋コンクリート床版の補強に用いられる工法です。
既存の横桁などに縦桁を増設させて床版の支持間を短縮させることによって、床版の曲げ耐力を向上させます。
下面増厚工法
橋梁床版の長寿命化を図る工法です。
交通規制をせずに施工できるメリットがあります。
本工法は、補修、補強両方の効果が得られます。
炭素繊維接着工法
腐食した鋼橋の補修に用いられる工法です。
炭素繊維シート、ストランド型炭素繊維シート、炭素繊維強化樹脂成型板が使用されています。
プレキャストPC軽量床版工法
橋軸方向に分割したプレキャスト部材を接合させて一体化したPC床版を用いた工法です。
橋梁補修の現状と課題
既存橋梁は、5年に1度、国が定める統一的な基準「点検→診断→措置→記録のメンテナンスサイクル」によって全数点検を実施しています。
1巡目の点検時で、早期または緊急に措置を講ずべきと診断された橋梁のうち、2019年度末までに着手した割合は、国土交通省で約7割、高速道路会社で約5割、地方公共団体では約3割という実施状況になります。
特に地方公共団体は、施工者の確保が困難であるという要因も含まれており、早急な対策を講じる必要があります。
令和2年度に創設された「道路メンテナンス事業補助制度」は、道路の点検結果をふまえて長寿命化修繕計画に基づき実施される橋梁のメンテナンス事業に対して、計画的かつ集中的な支援を可能にしました。
損傷や構造特性に応じた点検対象の絞り込み
損傷や構造特性に応じた定期点検の着目箇所を特定化することで点検を合理化し、特徴的な損傷については、より適切に診断ができるように着目箇所や留意事項を充実させています。
新技術の活用による点検方法の効率化
近接での目視を補完するなど、新技術の活用が増加しつつあります。
国が定めた標準項目に対する性能値に達している技術が開発者から提出され、技術カタログとして取りまとめた「点検支援技術性能カタログ(案)」は、令和2年6月の時点で80技術が掲載されています。
主な技術として、ドローンやレーザースキャンによる画像計測技術、電磁波やレーダーを利用した非破壊検査技術、センサーによる計測・モニタリング技術などが掲載されています。
【参考文献】国土交通省:予防保全によるメンテナンスへの転換について
おわりに
地方公共団体が管理している橋梁に対して、点検は概ね計画通りに進行するようになりました。
しかし、予算の安定的な確保、体制の強化がまだ不十分であることには変わりません。
今後の方策として、国から地方への技術的支援の継続や充実を図ることがあげられます。
予防保全を前提とし、これからのメンテナンスを計画的に実施できるよう、検討していく必要があります。
さらに、新技術の導入による長寿命化、コストの縮減を実現し、既存橋梁のメンテナンスを活性化していくことが急務となることでしょう。