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断面修復工法の1つ、左官工法とは?
断面修復工法は、コンクリートの損傷や劣化した部分を削り取り、必要に応じて強度を増すために鉄筋を入れた上でモルタルなどで修復する工法です。
断面修復工法には、左官工法、モルタル注入工法、コンクリート充てん工法、吹付け工法の4種類があり、施工条件や補修の規模によって使い分けられています。
ここでは、断面修復工法の1つである左官工法についてご紹介します。
左官工法とは?
左官工法とは、コンクリートの劣化や鉄筋の腐食などによって損傷した断面を、型枠を使用せずエポキシ樹脂モルタルやポリマーセメントモルタルを熟練の左官職人がコテを使って充てんして補修する工法です。
補修する1箇所の面積が0.5〜1㎡以下と小さく、補修箇所が点在している場合に適用されます。
施工箇所の上向き、下向き、横向きとあらゆる方向に対応できる工法です。
断面修復工法の中で最も一般的な工法であり、様々な工事で採用されています。
左官工法の施工手順
左官工法の施工手順についてご紹介します。
下記は、鉄筋防錆処理が必要な場合の施工手順になります。
取り壊す箇所にカッターを入れる
足場を設置して、コンクリートの取り壊す箇所にチョーク等でマーキングします。
マーキングした箇所にサンダーまたはグラインダーで切れ込み(カッター)を入れます。
サンダーとグラインダーは、共にコンクリートを研磨・研削する工具です。
はつり工
カッターを入れた範囲内をはつって、コンクリート内部の鉄筋を露出していきます。
「はつる」とは、削るという意味です。
カッターを入れた箇所の角を壊さないように削り取ることがコツです。
コンクリートが浮いていたり、剥がれているなど劣化している箇所を削り取ります。
この作業の際には、鉄筋を損傷させたり曲がらないようにするために、電動ピックやチッパーを使用します。
電動ピックと電動チッパーは、コンクリートに振動による打撃を加えて劣化部分を削り取る工具です。
鉄筋防錆処理
コンクリート内部の鉄筋を露出させ、ワイヤーブラシなどを使用して錆を落としていきます。
錆を落として清掃した鉄筋に、鉄筋防錆材をハケやスプレーガンで全体的に塗布していきます。
鉄筋防錆材には、ポリマーセメント系の材料を使用します。
スプレーガンを使用する際は、周りに飛び散らないように養生することが重要です。
プライマーを塗布する
はつりを施した箇所にプライマーを塗布していきます。
プライマーとは、コンクリートの補修で一番最初に塗る塗料のことです。
コンクリートの表面にできた樹脂の膜によって、コンクリート下地の水分を吸い取られないように調整する役割があります。
プライマーをハケやスプレーガンを使用してムラなく均一に塗布していきます。
モルタル材料の充てん
モルタルをヘラなどでコンクリートを削った箇所に擦り付けていきます。
使用するモルタルは、予め混合しておいた無収縮ポリマー系モルタルを使用します。
コンクリート表面に塗った厚さは、10mm以下にすることが重要です。
重ね塗りをする場合は、2時間程度を目処に塗装します。
はつり部分の深さが大きく、10mm以上の厚塗りが必要な場合には、補強材を入れたりモルタルにファイバーを混入するなどして多層塗りを施します。
左官コテで仕上げる
モルタルを充てんした箇所を、左官コテで表面を平らに仕上げていきます。
表面を塗った厚さが10mm以下となるように最終仕上げをして、足場を撤去したら完了です。
左官工法の費用
左官工法の費用はどれくらいかかるのでしょうか。
費用単価をふまえてご紹介します。
左官工法費用と単価表
左官工法の費用は、プライマー塗布も含めて1㎡あたり1万円くらいです。
鉄筋の錆落とし(ケレン)や鉄筋防錆処理が必要な場合は別途加算されます。
1橋あたりの単価表は次の通りです。
(土木工事標準積算基準書)
名 称 | 単 位 | 数 量 |
土木一般世話役 | 人 | 2.3 |
特殊作業員 | 〃 | 3.8 |
普通作業員 | 〃 | 2.5 |
断面修復材 | ㎥ | 設計数量×(1+ロス率) |
諸雑費 | 式 | 1 |
土木一般世話役は、指導的な業務を行う人、特殊作業員は、実際の作業および機械の運転や操作を行う人、普通作業員は、人力で資材土砂の運搬などを行う人のことを指します。
人数に関しては、2019(平成31年度)土木工事標準歩掛改定概要にて改定されました。
実際の工事事例でかかった左官工法の費用
三重県伊賀市で令和2年に実施された橋梁補修工事では、左官工法で施工されていました。
1橋あたりでかかった費用は、鉄筋ケレン・鉄筋防錆処理有りの場合で328,042円、鉄筋ケレン・鉄筋防錆処理なしの場合は183,060円と金額に差が出ました。
ちなみに、低圧注入工法の場合は1橋あたり159,117円、充てん工法の場合で92,548円と左官工法の費用が高額であることが分かりました。
これは、左官職人の作業費が高いということが考えられます。
NNTDに登録されている主な左官工法
NNTDとは農業農村整備民間技術情報データベースの略称です。
このデータベースに登録されている左官工法の中から多く採用されている工法を3つご紹介します。
FE工法/フロンテエンジニア(株)
FE工法は、コンクリート構造物を壊さずに施工する、環境に配慮した補修工法です。
耐アルカリガラスの繊維モルタルを使用することで、セメントのアルカリ性に対応しています。
老朽化したコンクリート構造物の長寿命化・機能回復を目的とした工法です。
CSモルタル工法/水路補修改修工法研究会
CSクリアーとCSモルタルを複合した補修工法です。
コンクリートの美観と耐久性の機能を新設時と同等レベルにまで回復させ、コンクリート構造物の長寿命化とライフサイクルコストを低減させています。
コンクリートの表面にコンクリート改質剤CSクリアーを塗布することで、表面の密度を緻密にします。
断面修復をCSモルタルで補修する際に、施工後の剥離を防止し断面の減少を小さくすることが可能な工法です。
アドバンテージ工法/(株)アドテック
高機能な材料である「アドバンテージ赤」を使用し、塗装の厚さをわずか2mmという薄塗りに成功した工法です。
薄塗りでありながら圧縮・付着強度も高く、伸縮能力もあるのでコンクリート構造物の耐久性を向上させています。
おわりに
これまで断面修復工法の1つである左官工法についてご紹介してきました。
住宅の壁をコテを使って塗装しているのを見た方もいらっしゃると思いますが、土木の分野でコテを使用して施工規模の小さい箇所を施工する工法がこの左官工法です。
左官工法は職人の熟練度が必要な工法であり、仕上がりに職人の技量が反映されます。
現在は、その職人の高齢化や人手不足が問題視されており、職人の確保または作業工程の簡略化など、技術の改良が必要であると考えられます。