column
剥落防止工についてその1~シート系~
多くの人々が、頻繁に利用する「トンネル」。
身近な構造物として利用されているため、トンネル自体の安全性を疑ったり、トンネルの構造を知ろうと思う方は少ないのではないでしょうか。
今回は、そんなトンネルの「コンクリート剥落」に関わる
剥落防止工のシートについて解説していきます。
トンネルコンクリート剥落防止の原因の考え方
まずは、トンネルコンクリートの剥落防止の原因の考え方について解説していきます。
コンクリートの剥落に至る背景や、過去の事例などをもとに分かりやすくお伝えいたします。
コンクリートの剥落に至った背景とは?
1980年代以降、強度が非常に強いとされていたコンクリートが崩壊することが問題になりました。
これは、高度経済成長期に建設が急速に進んだこと、施工が不十分なこと、材料不足による海砂の使用が原因と考えられています。
山陽新幹線は、当初の予定より3か月遅れの1975年3月に全線開通しました。
しかし、実際はまだ対応が必要なことが残っていましたが、当時の建設現場ではこれ以上工期を延長することができないという事情がありました。
その結果、トンネル事故の原因となったコールドジョイントなどの施工不良が発生することになります。
また、材料不足から、採取が簡単で安価な「海砂」をコンクリートの骨材として利用するようになったのも原因のひとつです。
かつて、コンクリートに使われる骨材とは、川から採取した川砂や川砂利を意味していましたが、1965年頃から河川保全を目的として、河川での骨材の採取が規制されました。
高度経済成長期の終わり頃は、良質な川砂に恵まれなかったため、山陽新幹線にも大量の海砂が使われました。
海砂は事前に脱塩が十分に行われていないと、鉄筋の腐食やアルカリ骨材反応を促進し、強いはずのコンクリート構造物を弱くしてしまいます。
そのため、海砂を使用する際は海水淡水化が必要です。
しかし、建設省から海水淡水化の徹底が通達されたのは、山陽新幹線が全線開通した2年後の1977年でした。
福岡トンネルのコンクリート大量落下事故
1999年6月27日、小倉~博多間の福岡トンネルで、覆工コンクリートアーチ(コンクリート塊約200kg)の一部が脱落し、走行中の新幹線の損壊が発生しました。
この事故では人的被害はありませんでしたが、列車の一部とパンタグラフが破壊され、列車のダイヤも乱れ、10万人以上の乗客が影響を受けました。
この事例は新幹線の安全性を揺るがし、従来、半永久的な構造物と考えられていたコンクリートの信頼性を大きく損なう事故として話題になりました。
この事故を受けてJR西日本では、事故後の2011年6月から7月にかけて、山陽新幹線のすべてのトンネル(142トンネル、全長約280km)で、スポーリングの原因となったコールド
ジョイントを調査しました。
結果、内93トンネルで計2,049箇所のコールドジョイントが確認され、補修が必要と判断された301箇所の鉄骨剥落防止工事が行われました。
この事故をきっかけに、コンクリート構造物の老朽化問題が社会問題として認識されるようになりました。
福岡トンネル事故の原因
福岡トンネル事故の原因はコールドジョイントの内部にひび割れが発生し、その進行に伴ってコンクリート片が落下したことでした。
コールドジョイントとは、コンクリートを流し込む際、流し込む時間に間が空くことで、先に流し込んだコンクリートと後から流し込んだコンクリートが一体化せず、それにより不連続面が発生することを意味します。
この事故のもう一つの原因は、「逆打ち」と呼ばれる工法により、駆動穴が落下したことです。トンネルの出入口とトンネル側壁本体との間に亀裂が生じ、漏水と温度上昇が発生しました。
「逆打ち」工法は、トンネル上部のアーチコンクリートを先に施工し、その後側壁のコンクリートを流し込む工法です。この流し込みで発生する突き出た打ち込み穴は、トンネルの構造設計上必要ないため、一般的には建設後に撤去されます。
福岡トンネルのケースでは、列車の振動などで亀裂が進み、突き出ていた駆動穴が自重で落下したものとみられます。
トンネルコンクリートを剥落防止する具体工法
トンネル内のコンクリートが急速に劣化して剥落しないようにする代表的な工法を紹介します。
ファイバーメッシュ工法
ファイバーメッシュ工法は、炭素繊維クロス剥落防止工法とも呼ばれ、トンネル覆工のコンクリート脱落を防止する工法です。
トンネル工事管理ガイドラインにある、はく離防止工事の基準試験に合格し、トンネル内での延焼を防ぐ延焼・自己消火基準や、避難時に有害な煙やガスが発生しないことを確認する発生ガス安全基準にも合格しています。
CFシート工法<構造補強・はく離対策>
NEXCOトンネル工事管理ガイドラインに準拠した品質基準に基づく、高強度炭素繊維シート(CFシート)によるコンクリート構造物の補強・脱落防止で、接着剤を高含浸させた炭素繊維シートをコンクリート構造物に貼り付け、トンネルを補修・補強する工法です。
剥がれ防止のポイントは下記です。
【剥がれ防止用】
・2方向高強度炭素繊維シート 坪量200g/m2×1層塗布方式
・炭素繊維を2方向(0°/90°)に平織りし、剥離を防止する補修用炭素繊維シート
・接着剤の含浸性を高める「開繊処理」(炭素繊維の束(トウ)をほぐし、繊維を均一に再束ねる技術)を施し、含浸接着剤「CFボンド」と組み合わせることで、優れたシート密着性を発揮。これにより、施工時の「シートのはがれ」を抑え、安全な施工が可能
・構成材料が非腐食性のため、ほとんどの環境で安定した耐久性を発揮
【工程の概要】
コンクリートへの表面処理⇒プライマー塗布⇒不陸調整剤塗布⇒含侵接着剤下塗り⇒シート接着⇒含侵接着剤上塗り⇒中塗塗布⇒トップコート
【施工例】
長崎自動車道日岳トンネル覆工補強工事(特定リニューアル等)
長崎自動車道
大村IC~諫早IC間に位置する日岳トンネルにおいて、車線規制内のトンネル覆工に連続繊維シートを貼付して補強する工事と、剥離防止シートを貼付することによる剥離対策
ボンドキープ維持工法
ボンドキープ維持工法は、耐候性、難燃性に優れた変性シリコーンエポキシ樹脂と長繊維シートを併用することで、トンネル覆工コンクリートや橋梁の剥落を防止する工法です。
トップコート不要で1日で塗れるのが特徴です。
「ボンドキープ維持工法®」は、中和、塩害、アルカリ骨材反応などによるコンクリートの劣化を防ぐために必要な機能を備えた保護工法です。多くの劣化要因からコンクリートを守るために、さまざまな工法が用いられていますので、必要な機能に応じて設定します。
【コンクリート目地用接着剤】
これは、新旧コンクリート目地用のエポキシ樹脂系プライマー接着剤です。従来のエポキシ系融着材に比べ、融着時間が非常に長く、湿潤接着性に優れています。
【ボンドキープ維持法】
これは、特殊変性ポリウレア樹脂を使用し、コンクリート表面にビニロン三軸ネットを接着し、コンクリート破片の脱落を防止する工法です。
一液性エポキシ樹脂をプライマーに、特殊変性ポリウレア樹脂をネットの貼り付けに使用することで、施工温度範囲を広げることができ、夏から冬まで同じ素材で施工できます。また、特殊変性ポリウレア樹脂は、従来のポリウレア樹脂に比べポットライフが長く、鉄切削などの作業性にも優れています。
【トンネル覆工コンクリート剥離防止工法】
「トンネル施工管理指針」及び「設計指針編」に対応した工法です。「小片」は想定剥離荷重が0.5kN以下のコンクリート片に適用、「超小片」は想定剥離荷重が0.5kN以上で剥離面積が約1㎡以下のコンクリート片に適用。荷重が0.5kNを超え、剥離面積が約1㎡を超えるコンクリート片の場合に適用します。
トンネル連続繊維シート補強工法
連続繊維シート補強工法(ボンド連続繊維シート補強工法)はトンネルの耐震補強工法です。
長繊維(炭素繊維、アラミド繊維)にエポキシ樹脂を含浸・積層することで、鋼板補強と同等以上の補強効果を発揮します。
ベースの修理工法
【ひび割れ補修工法(ボンドシリンダー工法)】
コンクリート構造物のひび割れを、低圧でエポキシ樹脂を注入して補修する工法です。
【断面補修方法】
鉄筋爆破等の損傷箇所に、劣化したコンクリート構造物をポリマーセメントモルタルやエポキシ樹脂モルタル等で充填する工法です。
トンネル新築時のPコンクリート穴埋め処理に伴う工法としても適しています。
なお、剥落防止工と同時にトンネル耐火目地材工法、トンネル長距離揚水埋戻し工法も行います。
まとめ
トンネルのコンクリート剥落防止法で亀裂など顕在化した場合の対象法をシートに限定してお伝えしました。
コンクリートの亀裂は年数と共に劣化が増幅し、万一、落下すれば大事故となります。
そのため、落下前の検知が非常に重要となりますが、予算が限られているのも事実です。
そこで解決策として、現在は下記のような科学技術を駆使して信頼度や確実性をアップさせて予測・予知を行い、優先順位をつけてリスクの高い箇所から剥落防止工事を行っています。
【トンネル維持管理システム(TuMaS)】
「TuMaS」の開発により、トンネルごとの変状展開図を地理情報として活用することで、さまざまなデータを一元管理(トンネル設備、点検データ、補修工事履歴など)することが可能となり、情報の検索・分析・編集が迅速かつ正確に行えるようになりより安全になりました。
【トンネル覆工表面検査装置(SATUZO)】
SATUZOでは目視点検をレーザーで可視化し、画像で確認し、夜間作業の点検箇所を事前に抽出することができます。その結果、検査を効率的に行うことができ、適切な予備修理を行うことができます。