剝落防止工についてその2~塗膜系~

昨今、トンネルのコンクリートが劣化し、バルク状で剥落する事故が相ついで発生しています。

対策には様々な工法があり、表面にシートを貼り付けるものや、塗膜系を用いて対処する方法などがあります。

今回の記事では、塗膜系を用いてコンクリートの劣化に対処する方法について詳しく解説します。

 

コンクリート構造物の劣化現象

 

トンネルのコンクリートの劣化原因には、「中和」「塩害」「アルカリ・シリカ反応」「凍結損傷」など複数の要因があります。

 

中和とは、アルカリ性が低下して中性に近づく現象です。

硬化したコンクリートは、セメントの水和反応で生成する水酸化カルシウムを多く含むため、強アルカリ性です。pHは12~13程度ですが、pHが10を下回ると内部の鉄筋が腐食すると言われています。

pHが低下する原因としては、炭酸化、酸性雨、酸性土壌や水との接触、火災による熱、化学物質の影響などがあります。

 

塩害は、鉄筋コンクリートの劣化の一つで、コンクリート内部に浸透した塩化物イオンによって引き起こされます。表面に付着した塩分は、塩化物イオンとして徐々に内部に浸透し、鉄筋の位置に到達して害を及ぼします。

 

アルカリシリカ反応とは、コンクリート中の骨材にシリカ鉱物などの特定の成分が含まれている場合、骨材が異常膨張してひび割れを起こすことです。アルカリ骨材反応とも呼ばれる現象です。

コンクリート中のナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属イオンが、骨材中のシリカ鉱物と反応してアルカリシリカゲルを生成します。さらに、コンクリートに雨水や地下水などを通して水が供給されると、生成されたアルカリシリカゲルが水と反応し、膨張します。この膨張がクラックの原因となるのです。

 

凍結損傷とは、寒冷地でコンクリート中の水分が凍結により膨張し、外気温差や日射の影響で長年にわたって凍結と融解を繰り返すことで徐々に劣化していく現象です。

内部に入った水は、凍ると約9%膨張します。穴の中の水が凍る時、まず大きな穴の水が凍り、次に小さな穴の水が凍ります。

小さな細孔内の水が凍結すると、大きな細孔に形成された氷の結晶によって膨張が制限されます。この膨張を吸収する自由気孔がないと気孔壁に大きな静水圧が発生し、コンクリートの引張強度に達するとひび割れが発生します。

 

トンネル表面保護塗膜工法の性質

 

超速硬化ウレアウレタン系ボンド工法を橋梁のはく離対策やコンクリート表面塗装工事に適用すると、主材のボンドは吹き付けてから約5分で硬化し、1回の工程で2~3mmの厚膜を短時間で形成します。

硬化時間30分(20℃)の速乾性プライマーを使用することで、面積が小さい場合でも1時間以内での施工が可能です。

従来の塗装方法では、同じ工程数でもより多くの硬化時間が必要です。

 

ボンド工法で形成された塗膜は、引張強度が13N/㎟、引き裂き強度が56N/㎟で、耐衝撃性に優れています。10,000回の引張試験を繰り返しても、コーティングが壊れることなく柔軟性を維持します。

 

塗膜は水に浸しても水に溶ける成分を含まないため、吸水により一時的に重量が増加しますが、水から引き上げて乾燥させると元の重量に戻り、ほとんど変化しません。

 

剥がれ防止押し出し試験では、最大荷重2.3kN、最大荷重時の変位量50mmでNEXCOの剥がれ防止基準をクリアします。

また、首都高速道路株式会社の評価基準A種剥離防止工法にも適合しています。

 

ボンド工法には、専用噴霧器を使用する270工法と、ハンドガンを使用する工法があります。270工法は大がかりな設備が必要ですが、短時間で大面積に施工できます。

ハンドガン工法は、3馬力のコンプレッサーとハンドガンのみのコンパクトな設備で、専有面積の少ない小面積工事に適しています。

どちらの方法もスタティックミキサー方式で材料を混合し、スプレー圧力を調整することで一般的なスプレー塗装に比べて飛散を少なくすることができます。

また、溶射法であるため、トンネルの出入口などの凹凸面でも平滑化するための表面処理を省略でき、工程の短縮が可能です。

形成される塗膜は耐摩耗性に優れ、土砂を含んだ水が流れる開水路の防水・保護材として適しています。

 

コンクリート塗装材

続いて、コンクリート塗装材の性質について解説いたします。

「道路トンネル技術基準(換気編)」の改正により、強制換気設備のないトンネルが増えているため、結露しやすいトンネルが増えています。その理由は、施工不良によりトンネル内が雨漏りし、暖かく湿った空気が冷えてしまうためです。また、トンネル内の空気中の水蒸気量が、舗装路面や覆工壁面の温度における飽和水蒸気量よりも多い場合、結露が発生し、湿気の多い状態になります。

トンネル内のコンクリート覆工の裏側は地面に面しており、片側だけが外気に触れています。このため、コンクリート表面からの水の流出量は、通常の屋外コンクリート構造物に比べて格段に少なく、坑口付近を除いて温度が安定し、湿度が高いと言われています。

そのため、塗装膜はマルチの多層膜構造体になっています。コンクリートの表面膜は接着性を重視し、外面膜は機能性を重視します。

 

プライマー

プライマーはコンクリートの粗い表面に塗布するので、膜が強靭でコンクリート材と接着性が高いエポキシ樹脂が多いです。

コンクリート表層の含浸・補強やコンクリートと被覆材の一体性確保(接着)が狙いです。

低粘度透明の二液タイプが主流です。

 

パテ

第2層も接着性を重視するので、パテにもエポキシ樹脂が多いです。

プライマーで残存した箇所やコンクリート表面を埋めて滑らかにするのが目的です(特に巣穴として残るとピンホールや膜厚不足の原因となります)。

高粘度(粘土状)、2液型が主流で、グレー色(塗料液:白、硬化剤:黒)が使用され、可使時間は夏季なら約20分と短いです。

 

中塗り

一般の劣化に対する仕様では、柔軟型エポキシ樹脂を用いてひび割れへの追従性、劣化因子の侵入を阻止します。

中粘度(厚膜塗装が可能)は2液型が主流であり、調色が可能で、可使時間が長いのが特徴です。

はがれ防止仕様では、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂が用いられており、耐荷重に優れ、劣化要因の侵入を防ぎます。

高粘度(繊維シート同士を接着)は2液型が主流であり、混色が不可、可使時間が短い(夏場で20分程度)のが特徴です。

 

上塗り

使用される樹脂は、ウレタン樹脂、フッ素樹脂が多いです。

最表層膜なので、耐候性や美観(色、つや)が要求されます。

低粘度で色調整可能な、2液タイプが主流です。

 

まとめ

剥落防止工法にはシートを貼るタイプの工法及び、今回紹介した塗料を使用するタイプがあります。

塗膜系の剥落防止工法は使う塗料により、プライマーの有無や塗布回数が変わります。

適切な使用ができるように、塗料の特徴をよく把握し施工することが大切です。

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