ひび割れ補修工の低圧注入工法について

はじめに

ひび割れ補修工法は、ひび割れの幅や変動の大小、鉄筋部の腐食の有無などで効果を発揮する条件が異なります。

補修の目的に応じて適切な工法を選択しなければなりません。

このコラムでは、ひび割れ補修工法の1つである低圧注入工法についてご紹介します。

低圧注入工法とは

低圧注入工法とは、ひび割れ内部にエポキシ樹脂などの補修材を加圧して注入する補修工法です。

圧縮した空気や、ゴムやバネが復元する力を利用することにより、加圧できる専用の器具を用いて補修材を注入していきます。

0.4N/mm²の加圧で、専用器具の中に補修材料が加圧され残っている状態で硬化することが原則です。

建設省時代の総合プロジェクトであった「建築物の耐久性向上技術の開発」や、「官民連帯共同研究開発」などの対象工法となっています。

また、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修の「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」や、「保全工事共通仕様書」にも採用されています。

低圧注入工法の特徴

低圧注入工法の特徴は、低速・低圧で注入できるため、奥行きが深いひび割れに対しても確実に対応できることです。

確実に注入できることにより、施工管理上の手落ちも少なくなります。

専用器具の加圧によって自動的にひび割れ部分へ補修材料が注入されるため、作業する人手もかかりません。

加圧ゴムの本数を変えることで、注入するときの圧力を0.1〜1.3MPaの範囲で調整することができます。

専用器具は透明度が高く、注入後のシリンダー内に残った注入材の残量を正確に計測することができ、硬化した状態を簡単に判断することができます。

ひび割れ部分への注入状況は同心円状に広がるため、注入の圧力によってひび割れが起きたり剥がれることがありません。

低圧注入工法で使用する器具の間隔

低圧注入工法で使用する注入器具の取り付け間隔は、ひび割れ幅が0.2mm以下の場合で約150mm〜250mm、ひび割れ幅が0.2mm以上の場合は約250mm~350mmぐらいの間隔で注入口を配置します。

手動式や機械式の注入工法として使用されるアルミパイプの取り付け間隔よりも広くできます。

ただし、現場の状況をふまえて間隔を微調整することも必要です。

低圧注入工法の施工手順

ひび割れ補修でエポキシ樹脂を注入する場合の施工手順をご紹介します。

ひび割れ部分に注入する補修材料としては、エポキシ樹脂だけではなくセメント系の注入材も使用可能です。

事前準備

ひび割れの状態を調査して、補修する範囲や工程などを打合せして協議します。

調査した結果に基づき、必要な材料や専用器具などを揃えます。

気象条件の影響により、工程が変更になる可能性も考慮しておくことが必要です。

材料の不足によって工事進行の妨げにならないよう、充分に確保しておきましょう。

 

ひび割れ箇所の清掃

ひび割れの箇所に沿った幅50mm程度に渡って、ワイヤブラシなどで周辺の汚れや脆弱部分などを除去します。

ひび割れ部分が雨などの影響で濡れている場合は、十分に乾燥させてから作業を行いましょう。

注入する箇所に目詰まりなどがある場合は、ディスクサンダーやドリルなどを用いて注入口を開ける必要があります。

 

専用器具の事前準備

ひび割れの幅に応じて専用器具の貼り付け位置を決め、チョークなどでマークしておきましょう。

そして、専用器具または台座の注入口を塞がないように接着剤で固定し、ひび割れ部分に仮止めシール材を施工します。

仮止めシール材はひび割れの状態に適合したものを選定することが必要です。

 

注入作業

注入するエポキシ樹脂の主剤と硬化剤が規定量になるように正確に計量し、色むらがなくなるまで充分に混合します。

使用可能な時間に注意して、1回分の注入で使い切る量を計量することが重要です。

専用器具でエポキシ樹脂の注入を開始したら、材料の漏れや減量の状態などを確認しながら、必要に応じてエポキシ樹脂を専用器具に補充していきます。

 

注入作業完了後の硬化養生

エポキシ樹脂がゲル化するまで注入状況を確認し、注入作業が完了したら専用器具を設置した状態のままエポキシ樹脂の硬化養生をします。

最低でも半日以上は放置しておいて養生することが必要です。

原則として、気温が5℃以下の場合は施工を中止しなければなりません。

 

仕上げ、検査・確認など

エポキシ樹脂が完全に硬化したら、専用器具および仮止めシール材を除去し下地面を平らに仕上げます。

下地を傷つけたり、汚さないように注意しましょう。

専用器具内に残留しているエポキシ樹脂から注入した量を確認します。

 

低圧注入の主要5工法

低圧注入工法の関連団体である、低圧樹脂注入工法協議会が指定している5つの工法を紹介します。

 

(株)リノテック:エアロプレート工法

エアロプレート工法は、コンクリートのひび割れを補修する簡便な自動式低圧樹脂注入工法です。

幅0.3mm以下、深さ4mm以下のヘアークラックでも完全に注入することができます。

専用器具の注入口が大きいので低圧でも早く注入でき、施工効率が高く経済的な工法です。

(株)ダイフレックス:SKグラウトプラグA工法

SKグラウトプラグA工法は、国土交通省や都市再生機構の仕様書に掲載されている自動式低圧エポキシ樹脂注入工法です。

ひび割れ幅の大きさに応じてDKポンプを使用し、注入材を切り換えたり粘度を変更することにより、容易に注入することができます。

ダイヤリフォーム(株):スクイズ工法

スクイズ工法は、コンクリートのひび割れ部分に対して注入する樹脂が押し分けるように入っていき、完璧に注入することが可能な工法です。

ゴムシートを枠で固定したスクイズプレートをひび割れ部分の上に貼り付け、注入口よりプレートに樹脂を注入することによって、ひび割れ部分の隅々まで注入できます。

コニシ(株):ボンドシリンダー工法

ボンドシリンダー工法は、シリンダーを捻るだけでセットとスタートがワンタッチで行うことができ、簡単に注入作業ができる工法です。

また、内蔵されている「BCストッパー」を使用することで、ボンドシリンダーへ樹脂を充填し、加圧ゴムのセットを事前に大量に行えます。

(株)ミクロカプセル:ミクロカプセル工法

ミクロカプセル工法は、専用器具のカプセルが半透明となっており、注入材の状態が目視できるので誰でも確実に注入できる工法です。

L型ジョイントと併用することにより、狭い場所での施工も可能です。

バネの復元する力で注入するため、施工人数を抑えられて経済的かつ確実な施工ができます。

おわりに

低圧注入工法は、コンクリート構造物の安全性確保を目指して様々な改良が加えられて今日に至っています。

現在では、建設費の投資の半分以上が維持保全に向けられるようになってきました。

これからも、コンクリート構造物の長寿命化に向けて、さらに低圧注入工法の改良が進んでいくことでしょう。

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