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橋梁床版補強工法についての解説
橋梁床版は自動車のタイヤの荷重を直接受ける部分です。そのため床版の損傷は大きくなり、損傷の進行も早まる傾向にあります。この記事では、橋梁床版の補強工法について解説し、工法の特徴、床版損傷の原因、施工手順などについてご紹介していきます。
床版補強工法とは
床版補強工法は、既設のコンクリート床版の荷重に耐えられる力を補う工法です。
床版補強工法は、作業する空間が狭いところで行われるため、人力での作業が中心となります。
それ故、機械による省力化を行うことが難しい工事です。
資材の供給や工事のために交通規制を敷かなければならない問題も発生します。
その問題を解決するため、様々な工法が開発されてきました。
床版補強工法の各工法については後述します。
床版損傷の原因
床版が損傷しやすい原因をいくつか挙げていきます。
自動車の荷重に耐えられない
橋梁床版が損傷しやすい原因として一番に挙げられることは、自動車の荷重に繰り返し耐えなければならないことです。
自動車のタイヤの荷重に耐える力を輪荷重と言います。
自動車の大型化や重量の増加によって、自動車の荷重に耐える力が弱まってしまうことが原因です。
特に古い橋梁は輪荷重が小さくなっているため、早急に床版の補強を実施する必要があります。
大きな輪荷重は床版にかかる衝撃も大きく、路面の不陸や伸縮継手の継ぎ目にかかる衝撃はさらに大きくなります。
施工不良
施工によってコンクリートの強度が不十分であったり、コンクリートの打設不足でジャンカ(豆板)というコンクリートの隙間が多い不良の部分が発生して床版が損傷することがあります。
そして、かぶり厚さ(鉄筋の表面からコンクリートの表面までの最短距離のこと)が不足していると鉄筋が露出してしまう原因にもなります。
配筋誤差と配力鉄筋量の不足
コンクリート内部にある鉄筋は等間隔で設置されています。
しかし、時にはその間隔がズレてしまうことがあり、そのズレが±20mm以内である場合は許容範囲であるとされていることから配筋誤差と呼ばれています。
この配筋誤差が大きくなると、床版のように道路面からの有効な高さが5mもない場合は、特に損傷の影響が大きくなります。
また、主鉄筋に対して垂直に配置されている鉄筋を配力鉄筋といい、この配力鉄筋の量が不足していると鉄筋が曲がる力を十分に発揮できないことがあります。
主桁作用の影響
床版にマイナスの曲がる力や引っ張る力が生じると、ひび割れを生じやすくなります。
また、3本以上の主桁に支持されている床版は、桁が輪荷重によって沈下することがあり、主桁に直角方向の曲がる力が床版にも付加されてしまうことによりひび割れが生じてしまいます。
床版補強工法の特徴
床版の損傷は、複数の原因が重なって生じるものと考えられています。
原因の特定には多角的な調査が必要ですが、その原因によって使われる工法は異なります。
今回は、鋼板接着(注入)工法、増桁架設工法それぞれの特徴について解説していきます。
また、ここでは簡単に触れさせてもらいますが、橋梁の大規模更新工事の際には、損傷した鉄筋コンクリート床版をより耐久性の高い床版に取り替える床版取替工法も使われます。
鋼板接着(注入)工法
鋼板接着(注入)工法は、既設コンクリート床版の下面に鋼板を樹脂で接着して一体化させ、床版の剛度を増すことにより耐荷力を増強させる工法です。
鋼板の接着には合成樹脂材料が用いられていますが、注入するポンプが従来の足踏み式から電動式に変わってきています。
施工は橋梁の下面で作業するため、橋上の交通には影響が出ません。
床版と鋼板の間に注入した樹脂は、床版のひび割れ部分にも侵入して既存床版の耐久性を向上させます。
増桁架設工法
増桁架設工法は、床版を支持している主桁や縦桁の中間部分にもう1本の縦桁を増設して支持間を縮めることで床版の耐荷重を増強させる工法です。
既存の横桁を支持材として用いることができる場合は高力ボルトによって連結し、比較的容易に施工することができます。
増設した縦桁上の床版にマイナスの曲がる力が生じないように、既設床版の配筋状態や床版上側の鉄筋量が十分であるかを確認しておく必要があります。
鉄板接着(注入)工法の施工手順
鉄板接着(注入)工法の施工手順について解説していきます。
下地調整
既設床版の下地調整を行う際に、鉄板を所定のサイズに切断し、鋼板の表面と床版の接着面の不陸をなくすために研磨機(サンダー)などでケレン処理を行います。
床版の接着面にひび割れや剥離が起きている場合は、パテ状のエポキシ樹脂でなるべく平らになるように調整します。
アンカーボルト取付け
床版に穴を開ける位置と鋼板が一致するよう正確にマーキングし、ドリルで穴を開けた後、アンカーボルトを取付けます。
鋼板の取付け
鋼板およびコンクリートの接着面の油脂やゴミなどをアセトンで除去した後、鋼板の周辺部にエポキシ樹脂を塗布し、注入用のパイプと空気抜き用のパイプ、スペーサーを所定の位置に固定します。
コンクリート面のアンカーボルトと鋼板面のアンカーボルト用に開けた穴を一致させ、アンカーボルトで取り付けます。
シール工
パテ状のエポキシ樹脂で鋼板の周辺部と注入用のパイプ、空気抜き用のパイプの周辺をシールし密閉した後、シールキャップを取り付けます。
エポキシ樹脂の注入
注入前にシールしたエポキシ樹脂の接着力が注入による圧力に耐えられるように養生します。
エポキシ樹脂を注入用ポンプで一方向から徐々に加圧しながら注入していきます。
空気抜きのパイプから樹脂が出てくることを確認しながら注入し、気泡がないことを確認してからパイプを密閉します。
表面仕上げ
養生を外した後パイプを切断し、表面をサンダーなどで平らにして鋼板用の塗料を塗布して仕上げていきます。
増桁架設工法の施工手順
増桁架設工法の施工手順について解説していきます。
下地処理
縦桁を接合するためのツバの部分(フランジ)に相当する範囲をディスクサンダーなどを用いて塵や埃、レイタンス(コンクリートの軟泥状の物質)遊離石灰を除去します。
この時に、増設する桁の障害となる部分を撤去しておきます。
増桁架設
床版補強用の増桁をアンカーボルトで締めて取り付けていきます。
この時に、床版面との縦桁の隙間ができるだけ小さくなるように取り付けることが重要です。
スペーサーの設置
エポキシ樹脂が硬化する際に床版に振動を与えないようにするため、樹脂製またはFRP型のスペーサーを設置します。
スペーサーは千鳥状になるように50cmぐらいの間隔で打ち込んでいきます。
シール工
パテ状のエポキシ樹脂でフランジの両端をシールし、隙間に応じて適当な間隔で注入パイプを設置します。
エポキシ樹脂注入
エポキシ樹脂を注入用ポンプで一方向から徐々に加圧しながら注入していきます。
空気抜きのパイプから樹脂が出てくることを確認しながら注入し、気泡がないことを確認してからパイプを密閉します。
表面仕上げ
注入したエポキシ樹脂が安定したことを確認してからパイプを撤去します。
グラインダーなどで撤去した跡を仕上げて桁の塗装を行ったら工事完了です。
おわりに
床版補強工は、機械による省力化が難しい工種です。
そのため、材料が軽量な炭素繊維を床版下面に樹脂で接着する「炭素繊維接着工法」や床版の上面または下面を増厚する「床版増厚工法」などの工法がすでに考案されています。
しかし、これらの工法は作業性は良いものの、床版損傷の追跡調査ができなかったり、作業効率が悪く交通規制が伴うなどの問題点もあり、工法採用に当たっては事前に経済性や現場の条件を十分に検討する必要があります。