ひび割れ補修工の充てん工法とは?

はじめに

コンクリート構造物などにおいてひび割れが生じてしまった場合、補修工事が必要です。

ひび割れの補修工事は、ひび割れの状況に応じて効果が発揮される条件が異なるため、適切な工法を選定しなければなりません。

ひび割れの補修工法として代表的なものは被覆工法、注入工法、そして充てん工法の3種類です。

このコラムでは、その中の1つである、ひび割れ補修工の充てん工法について説明します。

ひび割れ充てん工法とは

ひび割れを補修する充てん工法とは、どのような工法なのでしょうか。

ひび割れ充てん工法の特徴や補修方法についてご紹介します。

ひび割れ充てん工法の特徴

ひび割れの部分に沿ってU字またはV字にカットした部分へ、エポキシ樹脂やシーリング材などの補修材料を充てんする工法です。

エポキシ樹脂は接着剤として使用されており、シーリング材は隙間などを埋める充てん材として使用されています。

ひび割れ充てん工法が適用される場合

ひび割れ充てん工法は、ひび割れの幅が0.5mm以上と比較的大きい場合に使われます。

また、ひび割れ箇所の目詰まりなどによって補修材料が注入できない場合にも有効です。

ひび割れ充てん工法の費用と工期

ひび割れ充てん工法は、1つの橋あたり200,000円ぐらいの費用となりますが、ひび割れの状況や長さによって変わってきます。

工期は、シーリング材の乾燥なども含めると2日から3日ぐらいを要します。

ひび割れの劣化状況に対する補修方法

ひび割れの劣化状況は、ひび割れの進行性の有無により大きく分けて3種類に分類されます。

それぞれの劣化状況に対する補修方法についてご紹介します。

進行性のないひび割れ

進行性のないひび割れは、乾燥して収縮した場合や、水和反応で生じる熱が原因です。

ひび割れの度合いとしては軽微なものであり、早急に補修しなければならないということではありませんが、補修の際にはポリマーセメントモルタルなどを充てんします。

進行性のあるひび割れ

進行性のあるひび割れは、中性化や塩害、経年劣化が原因です。

この場合は、有害なひび割れとされるため、早急かつ適切な補修をしなければなりません。

補修の際にはシーリング材などを充てんします。

コンクリート内部の鉄筋が腐食している

ひび割れは放置していると進行してしまい、コンクリート内部の鉄筋にまで影響を与えてしまう場合もあります。

鉄筋部分が錆びていることを確認したら、鉄筋が露出するまではつり落とし、錆の除去および防錆処理を施します。

防錆処理を施した後、エポキシ樹脂やポリマーセメントなどのモルタルで埋めて補修します。

充てん工法の施工手順

ひび割れ充てん工法の一般的な施工手順についてご紹介します。

ひび割れ部分のカット

コンクリートの欠損部の状況を確認し、補修範囲を決定します。

コンクリートが脆弱になっている箇所をはつり落とし、埃などを除去します。

ディスクグラインダーなどを使用して、ひび割れの部分に沿って約10mmの幅でU字型にカットします。

カットの方法は、U字型カットとV字型カットがありますが、昨今ではU字型カットが主流です。

V字型カットとは

V字型カットとU字型カットはどのように違うのでしょうか。

V字型カットは、ひび割れに対して底面を尖らせる形状でカットする方法です。

最近では、円錐状のダイヤモンドビットを電動ドリルに装着してひび割れに沿って削っていく方法が考案されています。

U字型カットとは

U字型カットは、底面を曲面上にカットする方法です。

U字型は、V字型より充てんするコーキング材の量が多くなるため、モルタルの剥離や剥落がしにくくなり、ひび割れの進行を防止する効果があるためU字型にカットすることが多くなってきました。

プライマーを塗布する

U字型にカットした部分を入念に清掃し、エポキシ樹脂やシーリング材の密着を良くするためにプライマーを塗布します。

密着性を高めるためには、密着する部分の表面を平らにするなどの下地処理を施すことが重要です。

補修材を充てんする

プライマーが十分に乾いたことを確認したら、エポキシ樹脂やシーリング材などの補修材を充てんします。

ひび割れの進みが早いか遅いかによってエポキシ樹脂やシーリング材、ポリマーセメントモルタルを使い分けます。

ひび割れの進みが早い場合は、ウレタン樹脂やシリコン樹脂などのシーリング材、またはひび割れの箇所に合わせて柔軟に形状を変えられる可とう性エポキシ樹脂などの材料を使用し、ひび割れの進みが遅い場合は、ポリマーセメントモルタルで補修します。

下地調整、仕上げ

ポリマーセメントモルタルやフィラーなどで下地を平らに調整し、塗装が必要な場合は仕上げの段階で塗装します。

ひび割れ充てん工法の適用範囲

2019年度に改定を行った土木工事標準歩掛の改定概要にて、ひび割れ充てん工法の適用範囲および施工歩掛が改定されました。

 

これまでは、ひび割れ充てん工法が橋梁にしか使われていなかったのですが、道路や河川構造物にも使えるようになりました。

ここでは、ひび割れ充てん工法の適用範囲について説明します。

ひび割れ充てん工法の適用範囲の改定

現行では、橋梁のひび割れ補修における1つの橋当たり、ひび割れ延長300m以下の充てん作業に適用されていましたが、道路や河川構造物など橋梁以外の施工実績が見られたため適用範囲を拡大しました。

ひび割れ充てん工法の施工歩掛の改定

橋梁のひび割れ補修における1つの橋当たりの充てん作業から、適用されたコンクリート構造物のひび割れ延長に対応した歩掛に改定しました。

そして、1つの構造物当たりの補修延長距離を20m以上と20m未満の区分で設定し直しました。

主要なひび割れ充てん工法の紹介

主要なひび割れ充てん工法についてご紹介します。

Uカットシール材充てん工法

Uカットシール材充てん工法は、コンクリートやモルタルなどのひび割れの周辺箇所をダイヤモンドカッターなどでU字型にカットし、エポキシ樹脂やシーリング材を充てんする工法です。

防水性能に優れ、ひび割れの進みの速さにも対応できます。

さらにひび割れの進みが早いものには弾性シーリング材を使用します。

エポキシ樹脂モルタル充てん工法

エポキシ樹脂モルタル充てん工法は、コンクリートの剝がれ、剥落のため鉄筋が露出している時に使用される工法です。

鉄筋の欠損部や鉄筋が腐食している周辺箇所のコンクリートを削り落として鉄筋を露出させます。

鉄筋についた錆をワイヤブラシなどで取り除き、防錆処理した後にエポキシ樹脂モルタルで補修します。

エポキシ樹脂が硬化するまで振動を与えないようにし、雨水が当たらないように養生することが重要です。

ポリマーセメントモルタル充てん工法

ポリマーセメントモルタル充てん工法は、剥がれの箇所の欠損が浅い場合に使用される工法です。

ポリマーセメントモルタルとは、セメントに対して5〜20%のポリマー材が配合されている材料で、接着力や曲げ強度を高めることによってひび割れを抑えてくれます。

また、コンクリートの酸化による劣化の抑制や防錆などの効果も期待できる工法です。

欠損部を削り落とし、埃などをきれいに清掃した後、プライマーを塗り残しなく塗布します。

セメントの主剤と硬化剤を既定の比率で混合し、プライマーの粘着力があるうちにポリマーセメントモルタルが垂れてこないように抑えながら埋めていきます。

ポリマーセメントモルタルはひび割れが進行していくと対応できないため、ひび割れが大きい場合は他の工法を採用します。

まとめ

ひび割れの症状は、現場によって様々です。

幅の広さ、ひび割れの動き、内部の鉄筋が見えているなどが主な劣化症状ですが、

それぞれの症状に対応できる工法の選定をすることが重要です。

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