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炭素繊維プレートによる補強工とは?
炭素繊維は、鉄やコンクリートよりも軽くて強い素材です。
別名はカーボンファイバーと呼ばれ、その特徴を活かして航空機からスポーツ用品に至るまで、様々な分野で使われています。
橋梁の補修工事では、この炭素繊維をプレート化して構造物を補強する工法が確立されています。
このページでは、炭素繊維プレート工法の特徴や施工手順、主要な工法についてご紹介してきます。
炭素繊維プレート工法とは
炭素繊維プレート工法とは、橋梁の主桁下面の両端に炭素繊維プレートを引っ張ることで緊張を与え、エポキシ樹脂接着剤で接着、固定して補強する工法です。
工法の目的
橋梁の主桁にプレストレスを導入することで、コンクリートの応力状態を改善し、対荷重力を回復もしくは向上させるために施工されます。
プレストレスト力とは、荷重によってコンクリートに加えられる圧縮力のことを言います。
工法の特徴
炭素繊維プレート1本あたりのプレストレスト力が小さく、コンクリートに固定する部分の補強が不要です。
炭素繊維プレート自体が薄いため、見た目での形状が変わることがありません。
コンクリートに固定する定着部以外の防錆対策が不要なので、コンクリートの維持管理が容易に行えます。
そして、炭素繊維プレートが軽量であるため、コンクリートに固定するための定着装置もコンパクトで作業性に優れています。
炭素繊維プレート工法の施工手順
炭素繊維プレート工法の施工手順についてご紹介します。
鉄筋探査・墨出し
コンクリート内部にある鉄筋の位置や、鉄筋からコンクリート表面までの距離(かぶり厚さ)を、電磁誘導法や電磁波レーダーなどで測定します。
アンカーボルトを打設する際に、鉄筋を傷付けないように気をつけながらコンクリートに穴を開ける位置を決めていきます。
そして、炭素繊維プレートの貼り付ける位置に対して、中心点を決める墨出しを行います。
アンカーボルト削孔
コンクリートにアンカーボルトを打設するために穴を開けていきます。
コアボーリングマシンやハンマードリルを使って削孔します。
下地処理・不陸整正
コンクリート表面の汚れや、落石の恐れがある浮石をディスクサンダーで研磨、除去していきます。
不陸調整とは、コンクリートの表面にできた凹凸を平らにすることです。
次の工程にあるプライマーの塗布をしやすくするために必要な手順になります。
プライマー塗布
コンクリートの表面にプライマーをハケやローラーで塗布していきます。
プライマーの役割は、コンクリートの下地に塗る最初の塗料であり、コンクリート表面と接着面の密着性を高めてくれます。
アンカーボルト設置
コンクリートに穴を開けた部分にエポキシ樹脂を注入し、アンカーボルトを固定します。
PC部材の一部を解体・撤去し、残りの部分を使用する場合、炭素繊維プレートを引っ張って緊張状態にした後に途中で固定する作業が必要になります。
その後、強度と耐久性に優れた定着固定ベースをボルトを締めて締めて固定します。
炭素繊維プレート設置
炭素繊維プレートに接着剤を塗り、固定ベースにボルトで連結し、中間部をプレートで支持します。
炭素繊維プレートをツメ付きの専用ジャッキで引っ張って緊張状態にした後、定着部に保護カバーを設置しネジで固定します。
グラウト材注入
保護カバーの周りをシール材で密閉し、保護カバー内の隙間に注入用のモルタルなどのグラウト材を注入します。
プレート表面保護材塗布
炭素繊維プレートの表面にアクリルウレタン塗料などを塗装して表面を保護します。
アクリルウレタン塗料は、樹脂が柔らかく非常に密着性に優れているため、仕上げに使用することが多いです。
炭素繊維プレートの品質管理方法
炭素繊維プレートを施工する前に、工場において耐久性の試験を行うことで品質管理を行っています。
その試験方法についてご紹介します。
炭素繊維プレート引張試験
工場にて使用する炭素繊維プレートを試験用のフレームを用いて、ジャッキ中央部の穴にテンションバーを挿入し、主に引張用として使用されるセンターホールジャッキで引張強度の80%まで引っ張り緊張状態にします。
この試験によって炭素繊維プレートの緊張状態の耐久性を測定することで品質管理を行っています。
アンカー引抜き試験
施工現場にて、定着固定ベースを固定するアンカーボルトをセンターホールジャッキで引抜き試験を行います。
この試験によってアンカーボルトが引き抜かれることがないかを測定し、品質管理を行っています。
主な炭素繊維プレート工法
ここでは、主な炭素繊維プレート工法についてご紹介していきます。
eプレート工法/三菱ケミカルインフラテック(株)
eプレート工法は、炭素繊維と樹脂を浸透させた金型という金属でできた型枠で成形した炭素繊維強化プラスチック板を、ペースト状のエポキシ系接着剤で既存のコンクリート構造物に接着して固定する工法です。
eプレート一枚を貼り付けることで、従来の炭素繊維プレートより大幅に補強することができます。
道路橋のB活荷重対策によって必要となる床版や梁の曲げ補強に有効です。
B活荷重とは、高速道路などの重要な路線、大型車交通量の多い路線を対象とした荷重であり、25トンの大型トラックを想定した荷重の大きさのことを指します。
トウシート工法/日鉄ケミカル&マテリアル(株)
トウシート工法は、一方向に配列したトウシートを常温で硬化させたエポキシ樹脂を用いてコンクリート表面に貼り付ける工法です。
非常に施工性に優れており、重量の増加も伴わず高い補強効果を発揮します。
橋脚の耐震補強や床版のB活荷重対応、コンクリート構造物の補強や剥落防止、ひび割れの進行防止にも素早く対応できます。
アウトプレート工法/アウトプレート工法研究会
アウトプレート工法は、両端に定着体を有するCFRPプレートを緊張させて、既設コンクリート躯体に固定、接着する工法です。
CFRPプレートを緊張させることにより、コンクリートに計画的に圧縮応力を与えるプレストレスを導入することが可能で、少ない補強材料で大きな補強効果を得ることができます。
CFRPプレートが薄いため、見た目の形状も変わることがなく、断面の変化もほとんどありません。
RCやPCの内部が中空状態であるホロースラブ、橋桁と床版の構造を
T形にした鉄筋コンクリートで造ったT桁橋梁をはじめ多くの橋梁に適用可能です。
アウトプレート工法は、コンクリート橋だけではなく鋼橋でも採用されています。
H型鋼のような下部のフランジと炭素繊維プレートとの間にエポキシ樹脂を塗布した二層構造で鋼橋でも補強できます。
おわりに
鉄よりも軽く高い強度を有する炭素繊維の多様性により、様々な分野で活用されるようになりました。
土木の分野でも炭素繊維は橋脚の耐震補強などで使用されるようになりましたが、高い耐震性が証明されています。
今後も橋梁をはじめとした土木の分野で、炭素繊維を使用した工法が活躍することでしょう。