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裏ごめ注入工法とは
現在、老朽化しているトンネルは全国に多数あり、補修および補強が急務となっています。
裏ごめ注入工法は、古い既設トンネルの崩落を防ぐために用いられる工法です。
トンネルと地山との間にできた隙間を裏ごめ注入材によって埋めていきます。
この記事では、裏ごめ注入工法の特徴や裏ごめ注入材の種類、施工手順、施工時の注意点、主要な裏ごめ注入工法について解説していきます。
裏ごめ注入工法とは?
裏ごめ注入工法とは、トンネル工事のために開いた部分と地山との間にできた隙間にモルタルや樹脂などを注入して崩壊を防ぐ工法です。
裏ごめ注入工法の特徴
裏ごめ注入工法は、覆工の厚さを確保したりトンネルにかかる土の圧力を均一化して崩壊を防ぎます。
覆工はトンネル工事のために開削した部分を一時的に元に戻し、仮使用できるようにすることです。
トンネル覆工の背面には水分があることが多く、注入材が水と一緒に隙間へと圧力をかけて進みます。
また、地山から覆工へと加わる土の圧力を防ぐことができ、地山の風化や風化による崩落、そして漏水を抑制することができる工法です。
裏ごめ注入材料の種類
裏ごめ注入材料には、セメント系注入材と非セメント系注入材があります。
それぞれの特徴についてご紹介します。
セメント系注入材
セメント系注入材は、非可塑性注入材と可塑性注入材に分類されます。
可塑性とは、物質に外から力を加えても元に戻らない性質のことを指します。
非可塑性は外からの力でも元に戻るということになります。
物質に力を加えて変形させても元に戻りますが、力を限界以上に加えた時に元に戻らないのが可塑性です。
さらに高反発のエア系と非エア系に分類され、エア系は材料の注入中に気泡によるクッションが作用するため、地盤沈下など周辺環境を抑制する働きがあります。
非エア系は力を加えても物質の流動性を保持する働きがある注入材です。
最近の主流として、体積の変化が小さく、水中でも分離がしにくい可塑性の注入材が多く使われるようになってきました。
非セメント系注入材
非セメント系注入材で主に使われているのが発泡ウレタン系の注入材です。
セメント系注入材よりも流動性が低く、注入しても外に流れ出ない特徴があります。
発泡ウレタンには、圧縮による強度の違いで12倍発泡と40倍発泡があり、12倍発泡の方が強度が高いです。
また、発泡ウレタンを注入するにあたって使用する機材は、セメント系注入材よりも小型なもので対応することができます。
これはセメント系に比べて体積あたりの重量が小さく、注入した後にトンネルの内部で注入材が発泡するためであり、狭い箇所での作業でも容易に行えるメリットがあります。
裏ごめ注入工法の施工手順
裏ごめ注入工法の施工手順について解説していきます。
1.マーキング
2.注入バルブ取り付け穿孔
3.注入バルブ取り付け
4.材料の注入
5.注入バルブの閉栓
マーキング
設計図面に基づいて注入する位置をマーキングします。
注入する位置にひび割れが生じていた場合、注入材が漏れ出す恐れがあるため事前に補修することが重要です。
また、注入箇所が目地に近い場合には、覆工コンクリートに影響を及ぼさない位置に移動します。
注入バルブ取り付け孔穿孔
注入バルブを取り付ける穴を、コンクリート用のコアドリルを用いて削りながら空けていきます。
コアドリルは円柱状に孔を空けるための電動ドリルです。
孔を空ける口径は注入する孔よりも大きく削り、孔の配置はトンネルの中心線に沿って空けていきます。
トンネルの覆工内側の断面の面積が大きい時は、トンネルの中心線から左右20度以内の範囲で千鳥状または左右に5m間隔で注入孔を設けます。
孔の深さは覆工コンクリートの厚さが確認できる長さにすることが重要です。
注入バルブ取り付け
コンクリートから空洞部に向けて注入バルブを取り付けていきます。
注入バルブの先端は、竹を割ったように斜めにカットし、地山から50mmほど離して固定します。
空洞部分が小さい場合は、注入直後に急激な圧力上昇が生じるため注入できないことがあります。
このような場合には、注入バルブと空洞部分を100mm離して固定することが重要です。
材料の注入
トンネルの縦断方向の下から上へと材料を注入していきます。
注入する材料の圧力を圧力計で管理しながら注入し、空洞部分を十分に充填できる範囲内で覆工コンクリートへ影響を与えないようにできるだけ小さく注入することが重要です。
湧水による圧力がある場合は、水を抜くパイプを設けて圧力を事前に下げるなどの処置をしてから注入します。
注入バルブの閉栓
しっかり注入材が充填できたことを確認し、圧力を十分に抜いてから注入ホースを抜いていきます。
注入プレートにプレートプラグで留めて栓をしたら完了です。
施工時の留意点
裏ごめ注入工法施工時の留意点についていくつか挙げていきます。
注入する材料や施工条件によって施工内容も変わってくるため、次に挙げる留意点をふまえて施工することが重要です。
トンネル内の湧水が多量の場合
湧水が多量である場合、裏ごめ注入によって地下水位が上昇してしまうことがあります。
このような場合には、水抜き(ウィープホール)を併用することも考慮しておく必要があります。
また、降雨によってトンネル内の湧水が増加した場合は、注入作業を中断することも重要です。
導水状況を確認する
注入を実施する箇所に導水対策が施されている場合には、注入することで導水の断面が塞がれてしまい、排水機能の低下や湧水の浸出箇所が変化してしまうことがあります。
注入後の導水状況を確認し、必要に応じて導水対策を追加で実施することを検討することが重要です。
注入材が流出していないことを確認する
注入中や注入後に注入材が流出していないことを確認することも重要です。
トンネルの排水設備に裏ごめ注入材が流出することがあり、排水に注入材が混入したことによって環境に影響を及ぼすことがあります。
作業前に排水の水質基準や濁水処理の方法を定めて監視できるような体制にしておきます。
注入材が漏れた場合の対処方法
注入材が目地やひび割れ箇所から漏れ出てしまった場合には、注入作業を一旦中止してひび割れの修復を行う必要があります。
注入材が漏れ出てこないように防止の措置を行うことが重要です。
注入時の圧力管理
注入時に過度な圧力を加えると、覆工コンクリートが変形する恐れがあります。
施工中には圧力値の上限を設定しておき、圧力の管理をすることが重要です。
注入量が大幅に多くなった場合
1つの注入孔あたりの注入量が施工前に定めていた量を大幅に上回ってしまった場合、注入材が外部へ漏れ出てしまう危険性があります。
そのような場合は一旦作業を中断し、周辺の注入を先行して行います。
再度注入するかは注入孔の状況を確認してから判断することが重要です。
主要な裏ごめ注入工法の紹介
主要な裏ごめ注入工法の中で、アキレスのTn-p工法についてご紹介します。
Tn-p工法は、発泡ウレタンのアキレスエアロン-Rをトンネルの覆工コンクリート背面の空洞に注入することにより、地震などの災害からトンネルの損傷を防ぐための補修工法です。注入材料であるアキレスエアロン-Rは、フロン類を一切使用しないノンフロン発泡で地球環境にも配慮しています。
コンパクトな設備で対応が可能、環境にやさしく、施工性に優れており、トンネルの維持・補修に適しています。
おわりに
日本におけるトンネルの数は、国土交通省の統計によると1万本以上と言われています。
トンネルの長さは場所によって様々であり、老朽化が進んでいても補修や補強を実施するのが困難なトンネルもたくさんあります。
なるべく短期間でトンネルの補修や補強を行うべく、裏ごめ注入工法も日々開発が進んでおり、今後のトンネル工事において工期短縮に期待がかかっています。